その離職、会社全体の損失かもしれません──ベテラン社員の介護離職がもたらす“静かな崩壊”
企業にとって「介護離職」は、まだ“個人の問題”と捉えられがちです。
しかし現場ではすでに、ベテラン社員の離脱がチーム全体の負担増や若手の退職に波及するなど、
静かに深刻な影響を及ぼしています。
介護は誰にでも訪れ得る“生活リスク”。
このブログでは、産業ケアマネとしての現場経験をもとに、
50代・60代の介護離職が会社全体に与える実質的なダメージについて3つの視点からお伝えします。
ベテラン社員の離職が若手に“しわ寄せ”をもたらす現実
会社の中核を担ってきた50代・60代の社員が介護で突然退職、あるいは長期休職になる。
このとき一番影響を受けるのは、現場を支える若手・中堅社員たちです。
- 担当業務の引き継ぎに時間がかかる
- 「できる人」が抜けたことで、日々の処理量が急増
- 業務負担により残業や休日出勤が増える
この状況が長引くと、「やっていられない」という気持ちがチーム全体に広がります。
実際、ある製造業では50代のベテラン技術者が介護離職し、指導係が不在となった結果、
入社3年未満の若手社員の離職率が2倍に跳ね上がったケースもあります。
仕事の質が落ちる、クレームが増える──見えないコストが会社を圧迫する
ベテランの抜けた穴を若手が埋めようとする中で、業務の精度や安全性が低下することがあります。
- 確認ミスや判断ミスが増える
- 顧客対応の質が落ちてクレームに
- 結果として取引先との信頼関係にも影響
これは一過性のトラブルではなく、“質の低下”という形で会社の信用をじわじわと損なうリスクです。
さらに、ミスをカバーするための追加工数や人的補填によるコスト増も発生します。
つまり、介護離職という「個人の問題」が、
実は業績や職場環境全体を揺るがす組織の問題に直結しているのです。
「この会社じゃ両立できない」と思われる“職場の空気”が広がるリスク
社員は常に職場の空気を見ています。
介護を理由に辞めていく人がいるのに、何の対応も支援もない会社であれば、
次に親の体調が悪くなった時、「自分も辞めるしかないか」と思うのは自然な流れです。
- 「この会社では介護を理由に働き続けるのは難しい」
- 「いざという時に助けてくれない会社なんだ」
そんな印象が一度定着すると、優秀な人材の定着にも影響が出ることは避けられません。
介護は育児と違い、誰にいつ訪れるかが読めません。
「今は関係ない」が「明日は自分かも知れない」のが介護の世界です。
だからこそ、会社として「いざという時の備え」を示しておくことが、
人材の流出を防ぎ、組織の持続力を守る第一歩になります。
【まとめ】
- 介護離職によってベテランが抜けると、若手の業務負担が増え離職リスクも高まる
- 業務の質の低下やクレーム対応で、企業イメージ・コスト面の損失も大きい
- 「この会社では介護と両立できない」という空気が職場に広がると、将来の人材確保にも影響する
介護は“個人の問題”ではありません。
今こそ、会社としての備えと姿勢が問われています。
投稿者プロフィール

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大学卒業後、営業職・飲食業をへて介護業界へ。ホームヘルパー2級を取得後にグループホームでキャリアをスタート。
介護福祉士を取得し病院、ケアマネージャーを取得して老健・居宅支援事業所で働き、15年間の経験を元に、昨年7月株式会社介護屋ごとう、本年2月からはワントップパートナー札幌麻生店を設立。
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